5. 脳が外界を知るしくみ(後編)
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1. 聴覚
聴覚を引き起こしている外界の物理的刺激は空気圧の変化 スピーカーが音源の場合、スピーカーの振動面が繰り返し動くことにより、それに応じて周囲の空気が圧縮されたり希薄になったりする
この空気の密と疎の繰り返し状態が私たちの耳の穴(外耳道)を通って鼓膜を振動させる 音を知覚した際の「大きさ」「高さ」「音色」という次元は、いずれも脳における情報処理の結果としての主観 それらを引き起こす物理次元としての刺激は、順に「空気圧の大きさ」「周波数」「空気圧の変化の複雑さ」 聴覚のもとになるこの空気圧の変化のことを、音圧とか音波と呼ぶことがある https://gyazo.com/5f4b471ce044b7ceb7e5b46587fb6a8f
蝸牛管は渦巻状の形をしており、基底膜という組織が蝸牛管内部の手前から奥へと続いている 基底膜は手前ほど幅が狭くて硬く、奥に行くほど広くて柔らかいという、場所による性質の違いがある
一般の神経細胞の場合床となり、有毛細胞の場合K+は流出ではなく流入となることに注意
不動毛を外から取り囲むリンパ液中のK+濃度を比較的高く保つための機構が存在しているからである
K+は陽イオンであるから、それが流入することによって有毛細胞は脱分極する https://gyazo.com/3358ea25703882e90f11d2511903411a
不動毛の揺れが大きいほどK+流入量も増え、脱分極もそれに応じて大きくなる
つまり、聴覚系における振動信号から電気信号への変換の場は有毛細胞ということになる 脱分極の大きさに応じて有毛細胞から神経伝達物質が放出され、シナプスを介してその次の蝸牛神経へと信号が伝わる 聴覚経路は、耳と左右反対側の脳半球に向けて途中で交叉して聴覚皮質へと上行するものもあれば、交叉せずにそのまま同側の脳半球へと上行するものもある 鼓膜の振動の周波数(音の高さの知覚に対応する物理的刺激)情報が脳へと伝えられる様式 2つの機構が存在していると考えられている
基底膜の振動する位置が周波数によって異なることを利用しているというもの 一般に人間はおよそ20 Hz〜2万 Hzの範囲の振動を音として知覚するが、鼓膜の振動が高周波であるほど蝸牛管の入り口に近い方の基底膜が振動し、周波数が低くなるにつれて蝸牛管における主な振動位置が奥の方に移ることがわかっている
つまり、基底膜の長軸方向のどこに存在する有毛細胞が興奮するかが、振動の周波数を脳へと伝える信号となる
蝸牛管以降の聴覚系の部位(オリーブ核、内側台形体核、外側毛帯核、下丘、内側膝状体、聴覚皮質)いずれにおいても、この周波数局在という性質が保たれている 鼓膜の振動の周波数が、聴覚系の神経細胞において1秒あたりに発生する活動電位の頻度に移しかえられることにより周波数情報が伝えられるというもの
単一の神経細胞において数百 Hz以上の頻度で活動電位を発生させることは不可能
だが、聴覚系の複数の神経細胞の活動が組み合わさることにより数百 Hz以上の振動情報も伝えうる
知覚としての周波数弁別において、蝸牛管内の振動場所の違いが主に用いられているのか(場所説)、単位時間あたりに発生する活動電位の頻度が主に用いられているのか(時間説)については研究者間で一致をみていない 動物にとって重要な役割を担う聴覚的機能のひとつ
音源が真正面よりも右にあるのか左にあるのかによって、左右の耳に到達する空気圧の大きさや到達する時間に左右間で違いが生じる
到達時間の違い
大きさの違い
動物の聴覚経路における神経細胞から電気記録をおこなうと以下が見いだされる
2. 嗅覚
マウスは約1,000種類、人間は約400種類の受容体をもつ
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それぞれの嗅細胞にはある一種の受容体のみが発現している
ちなみに匂い分子は40万種類以上あるとされており、ある1つの嗅細胞が複数種の匂い分子に応答を示すこともある
嗅皮質中央後部の神経細胞は複数種の匂い分子に対して応答を示すことが多いので、匂い情報の統合に関与していると考えられる
一方、嗅皮質外側後部の神経細胞は単一の匂い分子に応答を示す割合が大きいことから、匂い情報の分析を担う脳領域と考えられる
3. 味覚
受容体が活性化されると、味細胞の膜の脱分極や細胞内Ca2+濃度の上昇が引き起こされる ある舌の部分がどれか1つの基本味に対する感度がもっぱら高いといったような極端な領域の区別はないが、舌の部分(舌先、舌の両脇、舌の奥など)によって5つの基本味の応答比率が異なっている
咽頭にある味蕾は二酸化炭素に応答し、いわゆる喉越しの味に対応している 4. 体性感覚
機械的な刺激が受容器細胞に加えられると、その場で電気的な信号に変換される
触刺激に対応する受容器細胞は上記のように複数の種類があるが、それぞれの受容野(皮膚における受持区域)の広さや、持続的な圧刺激に対する応答特性(圧の開始時点と終了時点でのみ応答を示すか、圧が加えられている間中持続的に応答を示すか)が、受容器細胞の種類ごとに異なっている https://gyazo.com/6a4fe2d78fbf35bfa6531ba6f7a7ba84
体性感覚皮質の各領域の神経細胞が身体のどの部位からの入力を受けているか、その身体部を描いた図で示すと、身体の部分の順番は入れ替わっているところがあるものの、身体のパーツごとにまとまりのある対応関係があること、体性感覚の空間解像度が高い身体部分ほど体性感覚における割当領域も広いことがわかる
何らかの理由で手または脚が切断された後も、失われた部分があたかも存在しているように感じる現象
幻肢が生じる原因に関する説明
ある体性感覚経路の途中で興奮が発生した場合でも、その信号は常に受容器細胞の存在する部位に対する刺激であると知覚されるという考え
例えば、手または足の切断面に何らかの触刺激が与えられた場合、もともと存在していた手足の先などの部分からの感覚と感じられるということ
手または足の切断によってその部位からの信号の到来が乏しくなった体性感覚皮質が、他の身体部位からの入力に占められるように変化した結果、手足以外の部分の皮膚に与えられた刺激による入力信号が、主観的には手足からの入力と感じられているのだろうという考え
5. モダリティ間の違い
それぞれのモダリティの近刺激となる物理的刺激の性質は互いに異なっており、また主観的経験、つまり見る・聴く・嗅ぐ・味わうなどの経験もそれぞれ明らかに異なるもの
言い換えると、モダリティ間の主観的な差は、神経回路網の何らかの差異(信号の進み方や神経接続の仕方の違い)によって生まれているはずであるが、どのような差異が重要なのかについては解明されていない